お疲れ様です。労災系ブロガーめかヴです。
先日、令和4年6月24日付で厚生労働省から、"令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します"という名目で、労災補償状況についての情報が公開されました。当ブログでも、この情報について検証をしてみたいと思います。(内容は都度、追記予定)
厚生労働省の資料 別添資料2 精神障害に関する事案の労災補償状況[PDF形式:1.8MB] も併せて参照のこと。
ソース元では「1 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」「2 精神障害に関する事案の労災補償状況」「3 裁量労働制対象者に関する労災補償状況」の3つの見出しがありますが、主に当ブログでは2つ目の、精神障害関連の内容を扱っていきます。
データ分析用に、元データをcsv形式に直したデータセットをこちらのページ(ブログ内リンク)に置いておきます。宜しければご活用ください。
精神障害に関する事案の労災補償状況
まず情報元から、以下の通り引用します。
(1)請求件数は2,346件で前年度比295件の増加。うち未遂を含む自殺の件数は前年度比16件増の171 件。
(2)支給決定件数は629件で前年度比21件の増加。うち未遂を含む自殺の件数は前年度比2件減の79件。
(3)業種別の傾向
・業種別(大分類)
請求件数は「医療,福祉」577件、「製造業」352件、「卸売業,小売業」304件の順で多い。
支給決定件数は「医療,福祉」142件、「製造業」106件、「卸売業,小売業」76件の順に多い。
・業種別(中分類)
請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「医療,福祉」のうち「社会保険・社会福祉・介護事業」336件、82件が最多。
(4)職種別の傾向
・職種別(大分類)
請求件数は「専門的・技術的職業従事者」599件、「事務従事者」512件、「サービス職業従事者」353件の順で多い。
支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」145件、「事務従事者」106件、「サービス職業従事者」105件の順に多い。
・職種別(中分類)
請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「事務従事者」のうち「一般事務従事者」373件、67件が最多。
(5)年齢別の傾向
請求件数は「40~49歳」703件、「30~39歳」556件、「20~29歳」495件の順で多い。
支給決定件数は「40~49歳」200件、「20~29歳」153件、「30~39歳」145件の順に多い。
(6)時間外労働時間別(1か月平均)の傾向
支給決定件数は「20時間未満」が73件で最も多く、次いで「80時間以上~100時間未満」が44件。
(7)出来事別の傾向
支給決定件数は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」125件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」71件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」66件の順に多い。
厚生労働省 報道発表資料 令和3年度「過労死等の労災補償状況」を公表します より抜粋
以下、雑感です。
請求件数と支給決定件数
労災補償の請求件数は2,346件で前年度比295件の増加、支給決定件数は629件で前年度比21件の増加といずれも増加傾向にありますが、やはりパワハラ防止法の施行や、コンプライアンスの強化などの影響も多少は考えられます。
しかしその一方で、増加件数を比率で見たとき、請求件数の増加率に対して、支給決定件数の増加率が追い付いていない印象を受けました。
[請求件数と支給決定件数の前年(令和2年度)からの増加率 (令和3年度件数/令和2年度件数)] ・請求件数 2346件/2051件 ≒ 1.144 (約14.4%増加) ・支給決定件数 629件/608件 ≒ 1.035 (約3.5%増加)
もちろん、年度内に支給決定の判定までたどり着かなかった案件も数多くあるでしょうし、正直、職場トラブルは請求人の数だけモデルケースがあるものなので、この数字だけでは結論を出せません。
とは言え、支給決定の際の潜在的な問題、例えば、労災審査官の判断基準にばらつきがある、労働基準監督署の業務が逼迫していてまともな判断を下せていない、と言った事情がが無いことを願います。
(特に、パワハラ関連の案件は、近年新設されたこともあって、労務官の裁量に委ねられているような印象を受けます。これは私が労災申請を実際に行ったうえでの感想です)
自殺者数の傾向について
表2-1の労災申請件数を男女別に分け、自殺者率を算出したグラフがこちらになります。
(なお、自殺者と言った場合、未遂もその中に含みます)
自殺者の割合だけ見ると、ここ近年減少傾向にありますが、労働で自ら命を絶つ方がいるという現実は痛ましいです。
また、業務がきっかけで命を絶つのは、圧倒的に男性の方が割合として多いことが分かります。業務上のノルマなのか重圧なのか…原因はその方にしか分からないことですが…
また、労災認定されるのは全体の約3割とよく言われますが、もっと言うと、「業務が原因で命を絶った場合でも、労災認定率は50%前後」であることもデータから分かります。
令和3年度を例にとると… 労災請求件数のうち自殺者が出ている件数は171件 支給決定件数のうち自殺者が出ている件数は79件 79/171 = 0.4619... ⇒約46.2% ※当年度中に支給可否まで決定していないケースも中にはあるでしょうから、厳密な計算ではありませんが、大きくは外れないと思われます。
業種別・職種別の動向
労災補償の請求件数に着目すると、「医療,福祉」577件、「製造業」352件、「卸売業,小売業」304件の順で多い、との結果でした。
(また、実際の支給決定件数のランキングトップ3も同じ)
請求した理由の内訳とセットで考えないと何とも言えないですが、医療・福祉関係者の方々の場合は、コロナ禍による業務負荷の増大が背景にあることが容易に想像できます。
年齢別の傾向
これは正直、支給決定事由(具体的出来事)とセットで考えないと、実態が見えてこない気がします。
実際、支給決定件数/請求件数 の割合だけで見ても、どの年齢層も似たり寄ったりで、有意な結果が得られるように思いません。
各年代における[支給決定件数/請求件数]の割合 ・40~49歳 200件/703件 ≒ 0.284 (約28.4%) ・30~39歳 145件/556件 ≒ 0.261 (約26.1%) ・20~29歳 153件/495件 ≒ 0.309 (約30.9%)
いくつかの仮説、例えば「40~49歳の請求件数が最も多いのは、マネジメント面や経営面などで過大な負荷が掛かっているから?(それとも単なる労働人口比率が原因?)」「20~29歳の支給決定件数の割合が(ほんの僅かとはいえ)高いのは、上司・先輩からの嫌がらせが原因で、それを立証できたから?」といった事柄を検証できるようなデータを提示してくれれば良かったのですが…
(そして、職場の環境改善をする側も、対策を打ちやすいと思います)
ちなみに、世代別の請求件数の増加率を計算すると、こんな感じでした。
[請求件数の前年(令和2年度)からの増加率 (令和3年度件数/令和2年度件数)] ・19歳以下 22件/24件 ≒ 0.917 (約8.3%減少) ・20~29歳 495件/448件 ≒ 1.105 (約10.5%増加) ・30~39歳 556件/490件 ≒ 1.135 (約13.5%増加) ・40~49歳 703件/597件 ≒ 1.178 (約17.8%増加) ・50~59歳 471件/402件 ≒ 1.172 (約17.2%増加) ・60歳以上 99件/90件 = 1.1 (10%増加) ※赤字は、全体での請求件数の増加率(約14.4%)を上回っている年代
時間外労働時間別(1か月平均)の傾向
注意しなければならないのは、ソース元の、支給決定件数は「20時間未満」が73件で最も多く、次いで「80時間以上~100時間未満」が44件という文言を表面的に捉えると、時間外労働時間と精神疾患の発症の因果関係が無いようにも思えてきます。
しかし、PDFの別添資料2の表2-6(P.24)によると、その他の件数(出来事による心理的負荷が極度であると認められる事案等、労働時間を調査するまでもなく明らかに業務上と判断した事案の件数)は305件と、全体の支給決定件数629件のうち、半数近く(約48.5%)を占めます。
結局は、職場に何らかの原因("過大な要求"といったパワハラや、重大事件・経営危機の対応にあたった等)が存在し、
時間外労働時間の多さは副次的なものである印象を受けました。
そもそも、労働者の時間外労働時間が、適切に記録・管理されているとも限りませんし
ソース元にデータ表しか掲載が無かったので、データを基にグラフを作成しました。
データセットから「その他」の件数を除外した上で、割合を図示すると、こんな感じです↓
ついでに、グラフ描画に使用したソースコードも置いておきます。データセットはこちらから(ブログ内リンク)
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
#ラベルの日本語化ライブラリ japanize_matplotlib(別途、コマンドプロンプトでインストールが必要)
import japanize_matplotlib
#ラベル格納用の配列 label を宣言
label = list()
#円グラフデータ格納用の配列 data を宣言
pieChartData = list()
#二次元配列用のリストdataListを宣言
dataList = list()
#データを記載したcsvファイルを読み込む(本プログラムと同一ディレクトリに保存)
with open("table2-6.csv", "r", encoding="ANSI") as f:
reader = f.readlines()
#行数のカウンタ countを宣言
count = 0
#一行目から順次、文字列として 変数row に一時格納する
for row in (reader):
#末尾の改行(\n)をreplaceで削除する
val = row.replace('\n','')
#カンマ区切りのリストとして、dataに格納する
data = val.split(",")
#出力
#print(data)
#最初の行(項目名)はデータに加えない
if(count != 0):
label.append(data[0])
pieChartData.append(data[5])
count += 1
#二次元配列に格納
dataList.append(data)
#リスト末尾の「合計」をスライスして削除
label = label[:-1]
pieChartData = pieChartData[:-1]
#加えて、「その他」をスライスして削除したデータ「~WithoutOther」を用意
labelWithoutOther = label[:-1]
pieChartDataWithoutOther = pieChartData[:-1]
#print(label)
#print(pieChartData)
#円グラフを描画
x = np.array(pieChartData)
plt.pie(x,labels=label,counterclock=False, startangle=90,autopct="%1.1f%%",radius=2.5)
#「その他」を含まない円グラフを描画
# x = np.array(pieChartDataWithoutOther)
# plt.pie(x,labels=labelWithoutOther,counterclock=False, startangle=90,autopct="%1.1f%%",radius=2.5)
#二次元配列を出力
#print(dataList)
出来事別の傾向
PDFの別添資料2の表2-8(P.26)の内容ですが、表だけ出されても何とも言えない感じです。
ひとまず、プログラミング等で解析しやすいように、csv形式に直したデータセットをこちらのブログ内リンク先に置いておきます。
都道府県別の傾向
PDFの別添資料2の「表2-5 精神障害の都道府県別請求、決定及び支給決定件数」には、都道府県別の請求件数が掲載させていますが、ここからは「産業やビジネスが活発な地域(東京、神奈川、愛知、大阪辺り)の件数が多い」という当たり前のことくらいしか分かりません。
都道府県別の労災認定率は算出しようと思えばできますが、地方はそもそもサンプル数が少ないので、信憑性に欠けます。
もし、労働基準監督署ごと決定件数のデータがあれば、興味深い結果が得られたかもしれませんが…
労災審査官がきっちり仕事している労基署と、そうでないところとか
まとめ
いかがでしょうか、と言いたいところですが、ハラスメント発生防止と、労働者の環境改善に終わりはありません。
厚労省の提示したデータセットを分析して、進展があれば、その都度追記していきます。